【小児科医監修】子どもの熱を正しく理解しよう

※この記事は2018年に開催された「ワハハ先生に聞く 子どもの病気への考え方と対応のしかた」講演の内容を

 抜粋し編集したものです。

英語・中国語版あり

 

 

私たちの体は長い歴史の中で非常に上手く作られていて、

いらないものは捨てて必要なものを体に残してきています。そして、自然に治る力を持っています。

近年、私たちの体がどう進化してきたかということを考えて、

病気や病気による症状を捉え直すようになってきました。これを進化医学と言います。

これだけ長い歴史の中でなかなか病気がなくならないということは、

やはり病気をすることにも意味があるんだろうという考え方です。

 

病気をして、抵抗力をつけていく

 

子どもはだいたい6ヶ月くらいでお母さんからもらった抗体がなくなってきます。

そうすると感染症にかかりやすくなるけど、自然にかかって抗体を作っていくわけですね。

 

今は、自然にかかるよりも予防接種で抗体を作ろうとしていますが、予防接種でできる抗体というのは、

自然にできた抗体に比べたら著しく力が落ちます。

これはなるべく病気にならないで免疫だけつけようという都合のいい考え方で作られたものなのです。

 

時々お母さんに、赤ちゃんだって体重がいろいろ違ったりするのにワクチンの量は同じでいいのかとか、

大人も子どもも同じ量だったりするのでそんなことでいいのかと聞かれたりするんです。

決められた量では少なすぎる人も多すぎる人もいるだろうと思うんですけど、

平均を取って入れるしかないんです。

また長持ちもしないということがあって、予防接種でできる免疫と自然にかかってできる免疫は

違うものだと考えた方がいいと思います。

 

医者からすると、患者さんが訴えてくるのはだいたい症状ですから、

頭が痛いとか、気持ちが悪いとか、下痢をしているとか、咳が出るとか言われると、症状を抑えることしかできないんです。

でもよく調べなおしてみると、症状を抑えるのが逆によくないというのがわかってきて、それが進化医学の根本なのです。

 

 

発熱は下げない方がいい

 

熱というのは、私たちの体にウイルスや細菌が入ってきた時に、それをやっつけるために出るんですね。

体温が上がるのも色んな理由があって、ウイルスや細菌が出す毒素によって熱が出るということもありますけど、

赤ちゃんが熱を出すのは、大抵は体を守るためです。

 

ウイルスや細菌が弱るのが38度から39度くらいだと言われています。

だから38度台まで出ればウイルスや細菌を弱めることができるのですが、

3歳くらいまではまだ体温調節がうまくできないのでちょっと出すぎることもあって、

40度とか41度になっちゃうこともあります。でも40度でも41度でも子どものからだに害を及ぼしません。

 

大人の場合はだいたい39度止まりですから39度を超えたらちょっと病気がひどいかなと思っていいと思いますが、

赤ちゃんの場合は、38度と40度とで特に差はありません

40度もあるから寝てなさいと言われても、寝ないで遊んでいる子どももありますが、これは寝る必要がないからです。

 

熱というのは、体を守るために出ているものだから、本来は下げないほうがいいんです

特に子どもの場合は、解熱剤を使わないで自然に下がるのを待ったほうがいいです。

40度になろうが41度になろうが、それで脳が侵されるとかいうことはありません。

脳炎だとか重症の髄膜炎になったら初めて脳に影響が出ますが、そういうケースはめったにない。

普通の風邪では熱が高くなったからどうこうということはありません。

解熱剤はマイナスの方が多いということがわかって、以前よりは座薬なんかが使われることも少なくなったと思います。

親は基本的には何もしなくていいです。冷えピタやキャベツの葉をのせて冷やす人もいるけれど、

子どもにはかえってうるさいだけで何の効果もないと思います。

 

安静にしなくても良い

 

日本は特にこの安静というのを大事にしてきました。

 

ヨーロッパでは、早く社会復帰するためにはなるべく普段と同じような生活を入院中でもした方がいいと言われています。

例えばサラリーマンは、ちゃんといつも起きている時間に起きて、ネクタイをして背広を着てという風にすごしたら、

割合治った時にすぐ社会復帰できる。

ずっと寝間着を着て寝ていると、良くなってるのに生活リズムが元に戻らないということがあるので、

入院中の生活のリズムもなるべく普通にした方がいいと言われるんです。

 

WHOが出している子どもが病気の時の過ごし方についてのガイドラインによると、

例えば咳をしている子は、表で活発に遊ぶのがいいということになっているんです。

うちで寝ていて良くなるわけではなく、むしろ体を動かした方が免疫力が強くなるのです

 

本当に重い病気の時は安静にする必要がありますけど、普通の病気で安静というのは意味がありません。

子どもは自分で表現しますから、普段全然お昼寝しない子が自分で寝たとなると、

やはり調子が悪いんだなと思った方がいいです。

熱があろうが、子どもが遊ぼうとするなら、ほぼ重い病気ではないということがわかります

 

実際、今子どもの病気で一刻を争う病気というのは、とても少なくなりました。

予防接種ができたおかげで髄膜炎や肺炎なんかが怖がられるけれど、数からするとすごく少ないんです。

 

髄膜炎でも、ウイルス性の病気でなる髄膜炎と、細菌によって起こる髄膜炎があって、ほとんどがウイルス性の髄膜炎です。

 

おたふく風邪で高熱が出ている場合はほとんど髄膜炎になってると言われているんですけど、

なんの後遺症も残らないし、ちょっと頭が痛いと言ったりするけれど全然怖いものではないんです。

 

大人の場合は心筋梗塞とかくも膜下出血とか一刻を争う病気はありますけど、

子どもの場合は、そういう病気は極めて少ないです。

本当の救急というのは事故ぐらいであって、病気での救急はあまりないのです。

 

 

つづく

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医師:山田真(ワハハ先生)

東大医学部卒。小児科医として約50年診察を続けている。八王子中央診療所所長。

「子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」代表、

育児専門誌「ちいさい・おおきい・よわい・つよい」編集協力人。

「自由に生きる、笑って生きる」をモットーに、親しみやすい町医者として、子育て中の親の強い味方。

『初めてであう小児科の本』『小児科BOOK』『子どもに薬を飲ませる前に読む本』『育育児典』

『はじめてのからだえほん』など、育児書から絵本まで著書多数。